SANZO K MATSUNAGA / BARISANKO
Publication 2024.7.25 KODANSHA
バリとはバリエーションルートを指し
ルートから外れた藪をかき分けるような登山を言います。
主人公は再就職した外壁塗装の会社に勤める波多。
日常と非日常がシンクロして進む物語は
これまで味わったことがない種のもので得も言われません。
純文学作品を読む度に
「掴みどころはないが何となく分かる」
そんな感触が残ります。
芥川賞を受賞した松永K三蔵「バリ山行」は
筋書きがある程度ハッキリしており比較的読み易い作品ではありますが、
例によって純文学の境目を探しながら読み進めることとなりました。
キーになる妻鹿=MEGAという登場人物がおります。
主人公はその妻鹿に触発され道なき道を進むバリに触れ
そしていつしか引き込まれていく。
純文学の解釈は娯楽性よりも芸術性に重きを置くというもの。
けれども一口にそういっても実のところ漠としていて分かりにくい。
自己解釈としては死生観が通底しているように感じています。
ついてはサラリーマンの日常とバリ山行という
危険性を伴う非日常の組み合わせは 絶妙である気がします。
山行の描写は生への葛藤とも置き換えられ
葉叢をかき分け進むその一歩がその呼吸が煩悩との対峙とも解釈できます。
著者は書かずしてはバランスが取れない変わり者なのか
周到に狙いを定め作品をドロップした絶妙なバランス感覚の持ち主なのか
今作が初見につき分かりません。
ただ一つハッキリしているのはその正体を知りたくなっているということで、
松永K三蔵という書き手のバリエーションルートへと
まんまと引き込まれたことは認めざるを得ません。
第171回芥川賞受賞(令和6年/2024年上期)松永K三蔵「バリ山行」
松永K三蔵 Official Website「三蔵亭日乗」
https://m-k-sanzo.com/
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